夜明け前の空が一番好き。
山小屋ではよく眠れません。
というか、この日、いつも以上によく眠れませんでした。
ま、夏山シーズンまっさかりということで、
布団1枚のスペースに寝袋が2つずつ。
ちょっと寝返りを打てば隣にぶつかります。
これがイヤで山小屋泊まりたくないと思っていましたが、
あの景色を見るためには
これを我慢するか、自分で自分の別荘(テント)を
担ぎ上げるのどちらかになります。
体力的にまったく自信がないのでテントは却下。
ということは、2人で1つの布団を我慢するしかないのです。
でもね。我慢する価値が十分あります。
さ、午前4時。起床です。
真っ暗な中ライトをつけて準備を整え
外に出ます。
外は、なんとなーく明るくなってきています。
まだ街の明かりが夜景として見えているのに
東の空は明るく・・・
あれ!?
あそこに浮かんでいるのは、もしや。
富士山だー。
北アルプスから富士山はかなりの距離があるので
ちっちゃいですが、雲海の上にちょこんと顔を出しています。
暗い中、燕岳へ向かいます。
その途中で、日の出の時間を迎えました。
ご来光です。
残念ながら雲が多くて
ぴかーっというご来光は見られませんでした。
その代わりに、明るくなるとともに360度の大パノラマが。
雲海の上に、中央アルプス、南アルプス、八ヶ岳、富士山、
噴煙を上げる浅間山、立山連峰・・・。
見えない山はないっていうくらい。
そしてもちろん、すぐそこに北アルプスの裏銀座と
西穂高、奥穂高、槍ヶ岳。
声も出ませんでした。
写真を撮るのも忘れて、
ブルーの世界から、だんだんと明るくなっていく様子。
それぞれの山のシルエットをただただ眺めていました。
山の上にはこんな世界があったのか。
明るくなった中、
燕岳の山頂に到着。
そして、山小屋への帰り道には
有名なイルカ岩と槍さまのツーショット。
めがね岩から山小屋を見ちゃったり。
今思い出しても
夢のようなひと時でした。
山小屋へついて、朝食。
おなかすいたー。
と、ぱくぱく朝食を食べながら
あれ!?
なんかおかしい。
何がおかしいかわからないけれど
ちょっと変。
高山病か!?
このまま、表銀座縦走をするのはちょっと気になるーと
朝ごはんのあと軽い気持ちで山小屋にある
夏季診療所に行ってみました。
慈恵医大の若いドクターたちが
かわるがわる夏の間
診療所に詰めているのです。
「どうしました!?」
「なんだかちょっと変なカンジで。
これから常念まで行くので一応診てもらえますか?」
「じゃ。まず熱計りましょう」
軽ーいきもちで体温計をわきに入れたとたん
ものすごい勢いで数字があがっていく
「あれれ!?」
・・・38.7℃。
下界でもだしたことのない熱です。
熱があったのか。
どうりで変だと思った。
そういえば数日前から
1日数回空咳が出てると思ったけど・・・。
食欲はあるし。
と、思っていたら
ドクターのほうがあせったみたいで、
酸素飽和度計ったり、血圧計ったり。
そして、
「これは下山ですね」
「えーっ!?」
しかし、山の初心者。
高熱があるとわかって(元気で、朝食前にも燕岳登って来たけど)
常念までの縦走はちょっと不安。
そして、実は同行していた友人は前夜から
すこし高山病の兆候があった。
ものすごいお天気で、
このまま表銀座を歩きたいのはやまやまだけど、
それと同時に、朝の1時間、素晴らしい時間を過ごせたのも事実。
ここは欲張らなければ
またきっと山の神様がプレゼントをしてくれるはず。
と、あっさりと撤退をする気持ちになれた。
1か月以上たった今でも、
あの夜が明ける瞬間の山の景色を思い出す。
もちろん残念な気持ちもあるけれど、
また来年チャレンジすればいい。
ひとつ残念だったのは
燕山荘名物のケーキを食べなかったこと。
下山する前に食べればよかったなー。
高熱があるので(自覚ないけど)
しっかり下山しなくちゃとそればかりあたまがいっぱいで
ケーキのこと忘れてたよ。
そして、ドクターにもらった薬と点滴のおかげで
30分ほどで熱は37度台に下がり、
これだったら行けるんじゃないかと思いつつも
下山したのでした。
最後にもう一度美しい燕岳を。